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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第4章 其の四

 ああ、この男(ひと)は真剣なのだ。本気で国のことを思い、民のことを思い、兄との約束を守るために、尾張に戻ろうとしている。美空にはけして手の届かない、遠い場所に。
「もちろん、お前も俺についてきてくれるだろう?」
 孝太郎の当然と言わんばかりの口調に、美空は愕然として良人を見つめた。
「どうするつもりだったの?」
 ふいに溜息にも似た声が洩れ、その声のあまりの頼りなさに当の美空自身が愕いた。
 眼を見開いた孝太郎に、美空は真っすぐな視線を向ける。
「私のことは、どうするつもりだったの? いずれ尾張に戻って、お殿さまになるつもりなのなら、どうして私みたいな町人の娘をお嫁さんなんかにしたのよ? ―それとも、いずれ捨てるつもりだった? 野の花をいっとき気紛れに摘んで、飽きたら、それではい、おしまいにすれば良いとでも?」
 泣くまいと思うのに、涙が滲んで孝太郎の顔がぼやけてくる。
「あなたは、私を騙してたのね? 私が何も知らないのを良いことに、私を良いように騙してたんだわ。最初からおかしいと思ってた。自分の両親のこともどこで生まれ育ったかも何も話さないあなたを疑ったこともあったけど、それでも私は信じてきたのよ。自分の好きになった人を信じられなくて、どうするんだって、いつだって心細さをごまかしながら、あなたについてきたのに。それが、この有り様なの? あなたはさっき、国は民のためにあるって言ったけど、心からそう思っているのなら、どうして、その民である私を騙したりするの? あなただって、結局は私たち町人には知ることも知らされることも許されない、虫けら同然の取るに足らない生きものだって思ってるんでしょ。だから、こんな酷い仕打ちをするのよ!!」

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