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RAIN

第3章 初恋《翔side》

美しい彼が振り返る。
それだけで世界は俺と彼のだけになる錯覚になる。

青年の、俺へと向ける視線は不安と不信と小さな怯え。

そりゃあそうだ。
たった今、出会ったばかりの、しかも何の関係もない全くの赤の他人が、急に声をかけられたら警戒するに決まっている。

だけど彼が俺の横を通り過ぎた瞬間、俺はたまらなかった。俺から消えてしまうのではという不安が、何よりも雨に彼が盗られてしまうのではという危惧が胸中に過ぎり、気づけば彼を呼び止めていた。


冷たい雫を一身に浴びた美しい彼を目の前にして俺が次にとった行動は、自分の黒傘を彼に手渡すことだった。
「よかったら傘……使ってください」
傘の柄を彼に握らせれば、彼はさらに警戒へと強めさせた。
とっさに手にしてしまっただろう傘を俺へと返そうとする。


だけど俺はそれを受け取らない。受け取りたくない。
だってこれ以上、この人を雨に濡れてほしくなかったから。奪われたくなかったから……。

「俺なら大丈夫ですから」
それだけを口にして俺は駆け出した。


後ろからあの人の視線を感じたけれど、傘を返される前にという思いが強く、その場から逃げるようにして全速力で走って行った。





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