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RAIN

第3章 初恋《翔side》

バシャバシャとうるさい音が自分の足元から発せられる。忌々しい雑音。水飛沫が舞う度に雨に纏われるような感覚が増し、不快感に支配される。


もうどのぐらい走っただろうか。
息も切れ切れ、足がさすがにふらつく。体力の限界を覚え、俺はようやく足を止めた。
ハァハァと荒い呼吸をはきながら、辺りを見回す。雨によって視界がいつもより悪いが、今自分がいる場所が我が家に近いことに気付き、無意識にしっかりと家に向かっていたことになぜか苦笑してしまった。
どんなに動揺や緊張しても体はしっかりと向かうべき場所を覚えているらしい。

何とか息を整え、俺はあと数分で着く我が家へと歩きはじめた。



……そういえばあの人、傘使ってくれたかな?
さっき会ったばかりの青年の面影が鮮明に蘇る。

儚く消え入りそうな、美しいあの人。

どうしてだろう、なぜかあの人が気になって仕方がない。
もう雨なんかに濡れてないだろうか?
風邪引いてないだろうか?

俺の心を占めているのは、はじめて会ったばかりの、名も知らない青年のことばかり。


こんな感情ははじめてのことだ。
どうしてこんなにもあの人のことが気になる?
あの人の面影を思い出すだけで、胸がなぜか苦しくなる。同時に熱くなってくるような感覚までしてくる。

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