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RAIN

第3章 初恋《翔side》

……そういえばあの人、泣いていた?


ふと浮かぶ青年の哀しげな瞳。
雨の雫がそうさせていただけかもしれない。
だけど腑に落ちない。それはあの人のあまりにも哀しい瞳を見てしまったから。


――護りたい……――


再びこみあげる誓い。それは勝手な誓いではあるけれど。


あの人を想うだけで切なくなる。けれどそれだけではない。あの人に出会えた奇跡に感謝したい気持ちもあった。

嬉しくて、哀しくて……、もう一度会いたいと心から願う気持ちが膨らんでくる。

そんな複雑な感情は未体験だ。だけど俺はこの感情の正体をうっすらとだが知っていた。
でもこの感情はきっとあってはならないものかもしれない。
だって俺は男で、あの人も同じ男だ。それは世間でいう禁忌の感情に値する。
それでも俺はあの人を想うだけで愛しさが溢れてくる。
そうだ、愛しい。誰よりもあの綺麗なあの人が愛しくてたまらない。


俺は小さく、この感情の正体の名称を呟いた。



「…………はつこい…………」

口に出してみて、ますます実感する感情。
そうだ、間違いない。初めて味わうこの感情は“初恋”だ。


俺の呟きは誰に聞かれることもなく、雨音と一緒に混じって消えた……。







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