テキストサイズ

RAIN

第10章 裁かれた母子の行末《拓海side》

神崎くんの真摯な瞳はどこまでも強く、俺を愛しむものだった。
俺はこの瞳と同じ人間を知っている。
誰からも忌み嫌われ、孤独の身であった俺に、なんの見返りも求めず、ただひたすら見守ってくれていた人間が過去にいた。神崎くんの瞳はその男に似ていた。
いつでも俺に優しく接し、どんな時でも俺を守ってくれた唯一の親友。
だけど俺はそんな彼を不幸へと誘ってしまった。

だからこそ俺は神崎くんから離れようと決意した。彼を失いたくない。もう二度と誰も失いたくなかった。

けれど彼は俺と離れることが自分の不幸だとはっきりと告げた。こんなにもなんの迷いもなく、まっすぐに向けられる好意に俺は困惑と躊躇が付きまとう。
神崎くんは俺の過去を知らないから、俺の不吉な名称の由来を知らないから好意を口に出来るのかもしれない。

それでもこの少年に委ねたいと願う自分もいた。
孤独には慣れていた。それでもこんな風に無条件の愛情を捧げてくれる少年の温もりに触れてしまった俺は、誰よりもその温かさに飢えていたのだと自覚してしまった。



『お前はもっと貪欲になっていいんだぜ』
親友の言葉が俺に届く。

――だけどもう俺はこの少年を失いたくない。俺のせいで不幸になってほしくないんだ――

『大丈夫さ。お前は誰も不幸になんかさせてない』
脳裏にあいつの屈託のない笑顔が広がってくる。
『お前は死神なんかじゃない。だからもっと素直になって、差し出された手を離すな』
いつだって俺を叱咤し、俺を守ってくれた親友の言葉に何度も俺は救われた。


……本当に俺は目の前にある、優しい手に触れていいのだろうか?

ストーリーメニュー

TOPTOPへ