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夢幻の蜃気楼

第5章 違和感

やっと二人組を撃退し(といっても少年がしてくれて、僕は無力でしかなかったが)、僕と少年の二人きりになってしまう。

僕のはるか頭上に立っている少年の様になっている立ち姿に僕は自然と嘆息の息を吐く。
彼はなにもかもが整っていた。手足の長さまで僕とは段違いだった。世の中は不平等だ。本気で落ち込んでしまいそうだ。
しかし今は不平を言っている場合ではない。彼に礼を述べなくてはならない。

「あの……」
正直にいえば彼に対して怖いという感情は消え失せてはいなかった。あの二人を軽々と撃退してしまった強者なのだ。恐怖を感じない訳がない。
それでも自分自身を奮い立たせて、少年へと声を掛けた。声が震えてしまうのは仕方がないと思う。


僕の振り絞った声に、少年がぎろりとこちらへ向ける。それだけで萎縮してしまいそうだ。碧い双眸がなんだ、と無言の圧力をかけてくる。

そんな圧力に飲まれまいと一度大きく深呼吸してから、伝えたかった言葉の羅列を形にする。
「助けてありがとう」
素直に礼を述べれば、今までの鋭い視線から瞳を開き、口を僅かに開けて僕を注視していた。
何をそんなに驚くことがあるのかと、彼の次の行動を待ってみる。

だけど彼が次にとった行動は、僕が想像してたものとは若干違っていた。


彼は驚愕からすぐに今までの彼に戻り、ふ、と不敵な笑みを浮かべながら、石段を降りながら僕へと近付く。
思わず警戒して身構えてしまう。
完全に石段を下った彼は僕との距離を一気に縮め、対峙する形になった。そしてまた新発見をしてしまった。

背まで僕より高いことに……。

さっきから屈辱を味わっている。
どうしてこんなにも彼と僕に差が開きすぎているのか。神様はこんなにも差別するのかと、半分恨みたくなつてくる。


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