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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

事実、右議政一家が賊によって惨殺された後、かなり長い間、ゆく方不明の英真と乳母を領議政は捜し回っていたのだ。仮にもし、英真が生きていることを知れば、領議政は後々の禍根を断とうと、英真を再び殺そうと魔の手を伸ばしてくる可能性が皆無とはいえない。
 義兄秀龍もまた、普段から、不用意に素姓が露見するような発言はくれぐれも慎むようにと言っていた。
 相手が準基だからと、つい気を許してしまったのだろうか。
「盗賊に―殺されたのです」
 それが、今の浄蓮の精一杯の応えだった。
 震える声でようよう言った。迂闊にも警戒を解いて喋り過ぎてしまったことへの衝撃、当時の兄や両親が惨殺されたときの恐怖と哀しみが同時に浄蓮を襲っていた。
「そう―だったのか」
 準基は、またしても、それ以上は訊ねなかった。元々、優しい男なのだろう。
「だが、浄蓮。兄上の代わりに自分が死ねば良かったというのは、あまり感心しない。兄上は多分、浄蓮を可愛がっていたはずだ。兄上が可愛がっていたからこそ、浄蓮がそんな風に思うのだろうから。浄蓮、そなたを大切に思っていた兄上が、今のそなたの言葉を聞いて、歓ぶだろうか?」
「それは」
 浄蓮は言葉に窮した。
「兄上は、絶対にお歓びにはならないだろう。浄蓮、そなたはむしろ、兄上の生命を自分が引き継いだと思い、兄上の分まで生きなければならない。兄上の果たしたかった夢を、そなたが代わりに果たすのだ」
「兄上の生命を引き継いで―」
 そんな風に考えたことはなかった。人は死ねば終わりだと、すべては無に帰すると思い込んでいたのだ。
 だが、それは大きな間違いであったのか。
「若さま、私が生きることで、兄もまた叶えられなかった夢を果たすことができるのでしょうか?」

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