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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 本当に、この人とずっと二人だけでいられれば良いのに。
 この得難い静かな時間が未来永劫、続いてゆけば良いのにとすら思う。
「静かだね」
 準基の方は、この沈黙を持て余しかねているらしく、どうも、そわそわと落ち着かないようだ。
「やけに考え込んでいるみたいだけど、やっぱり、嫌な話だったかな?」
 最初は何のことが判らなかったが、準基の言いたいのは〝天上苑〟伝説のことらしい。
「いいえ」
 浄蓮は微笑むことで、そうではないのだと示した。
「若さまは、お話上手なのですね。心に残る良いお話でした。それよりも、若さま、私、色々と若さまのお話をお聞きしたいです。さっきは、私の兄の話を致しましたが、若さまの兄上さまは、どのようなお方なのでしょうか?」
「そんな風に―話上手だなんて言われたのは初めてだ。むしろ、自分では、かなりの口下手だと思ってるんだよ」
「そうですか? 若さまのお話をお聞きしていると、お話の中の風景を私までもが現実に眼にしているように浮かんできます。今度は、もっと兄上さまのお話を聞かせて下さい」
 準基が笑った。
「浄蓮は、相手をおだてて、その気にさせるのが上手だね」
「あら、私はお世辞なんか申し上げません。全部、本当のことですよ」
 浄蓮が頬を膨らませると、準基が手を伸ばして、白い頬をつついた。
「浄蓮は笑った顔も良いけど、怒った顔もなかなか可愛いよ」
「まあ、若さまの方こそ、女人をおだてるのがお上手ではないのですか!」
 二人は声を合わせて笑う。

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