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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 準基がふと真顔になった。
「兄は身体が弱いんだよ」
「若さまは先ほど、露草の咲いている野原には、兄上さまが連れてきてくれたのだおっしゃってましたけど」
「うん、そのとおりだ。そのときは、この天如苑までは流石に来なかったけど、ここのことや伝説を教えてくれたのも兄だよ。天上苑には、もう少し大きくなってから一人で来たんだ」
「若さまの仰せのとおりですね。本当に物識りの兄上さまですわ」
 尊敬する兄を褒められて、準基は少年のように頬を紅潮させている。
「露草の原に来た時、私は八歳、兄は十五歳だったと思う」
「お兄さまが私と同じ歳の頃ですね」
 そうだね、と、準基がこの上なく優しいまなざしをくれたので、浄蓮までもが頬を染めることになってしまった。
「兄には心臓の持病があってね。そのために、幼い頃から、烈しい運動はすべて禁止されていたんだ。むろん、本当は乗馬も論外さ。だけど、遊びたい、駆け回りたい盛りの男の子がずっと屋敷で本ばかり読んでいられるはずがない。で、兄は私を連れて、ちょっとした冒険を企てたんだ」
 それが、露草の原行きであったことは、聞かずとも判る。
 浄蓮は眼を輝かせて準基の話に聞き入った。準基は確かに話し上手であった。聞き手の心にするりと入り込み、自分の話の世界に引き入れてしまうのだ。彼の話を聞いていると、もっと先、更に先が聞きたい、その先がどうなるのかを知りたいと思う。
 浄蓮の反応に気を良くしたのか、準基の声も弾んだ。
「監視の眼をかすめて屋敷を抜け出したところまでは良かったけど、帰ったときには、父上に大目玉を喰らったよ。何しろ、馬に乗るどころか、部屋の中を走ることだって許されてないのに、兄上は都の外まで遠乗りに出たんだから」

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