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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 そのときのことを思い出したように、準基はクスクス笑った。
「あれは、たいしたものだったよ。馬に乗るのはほんの二、三度目だっていう兄上が楽々と馬を乗りこなせるし、私は内心、愕いた。この方は何をやらせても、人並み以上の才能を発揮すると誇らしい想いになった。まあ、その分、父には後でさんざん叱られてしまったけどね。幸い、何事もなかったから、良かったようなものの、本当に兄上のお身体に何かあったら取り返しのつかないところだった。今から思えば、子どもゆえの短慮だ」
 浄蓮は真顔で首を振った。
「そんなことはありませんよ。兄上さまは、きっと、とても心愉しいひとときを過ごされたのではないかと思います。若さまは、兄上さまに素敵な想い出を作って差し上げられたのではありませんか」
「そうだと良いんだけどね」
 準基がふと思いついたように言った。 「そういえば、いつか、そなたは私に言ったな。客に選ばれるのではなく、客を選ぶことのできる妓生になると」
「はい。確かに申し上げましたが?」
 何故、今ここで、準基がその話を持ち出したのか、その意を計りかねた。
「そのことを、兄上に話してみたんだ。慕っている娘がそのようなことを言っていたとね」
 準基があまりにも何げなく言ったので、浄蓮は危うく〝はい、そうですか〟と相槌を打ちそうになり。
 改めて彼の科白を反芻して、次の瞬間、言葉に咽せそうになった。
「し、慕っているって―」
 準基の方はといえば、至って落ち着いていた。
「偽りのない私の気持ちだよ。私は来年、科挙を受けるつもりでいる。もし、そなたさえ良ければ、科挙に合格したら、私の妻になって欲しいと思っている」

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