テキストサイズ

麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

「そんな―」
 浄蓮は言葉を失い、視線をさ迷わせた。
 何を、どう応えれば良いというのだろう。
 準基は自分を慕っていると言い、また、浄蓮も彼に強く惹かれている。両想いなのは間違いないが、準基は男であり、自分もまた男だ。
 この場合、たとえ両想いだと判っても、歓んで良いものかどうか、判断に悩むところである。もちろん、自分自身としては、柄にもなく泣き出してしまいそうなほど嬉しいのは当たり前であったけれど―。
「話が逸れてしまった」
 準基は照れをごまかすように、わざと鹿爪らしい表情を作り、紅い頬をしたまま続けた。
「そなたの言い分を聞いた兄上が、そなたは、朝鮮一の妓生になるつもりなのだろうと仰せになっていた」
「朝鮮一の妓生?」
「そうだ。客に選ばれるのではなく、裏腹に客を選ぶ妓生。そんな妓生にはなりたくても誰でもなれるものではないし、また、普通の娘はそこまで途方もないことを考えはしない。自らの意思で客を選ぶのは、まさに、名妓と呼ばれる最高の妓生だけに与えられる特権だ。兄上はそこまでは言われなかったが、多分、そういう意味で朝鮮一の妓生とおっしゃったのだと思う」
「朝鮮一の妓生に、私が、この私がなる」
 浄蓮は準基の科白を繰り返した。
 涙が、溢れた。たかだか身の程知らずの小娘のたわごとと笑われても仕方のない話に、〝朝鮮一の妓生〟という言葉を贈ってくれるとは!
「そんな風に言って頂けるなんて、考えてみたこともありませんでした。朝鮮一の妓生だなんて。あまりにも凄すぎて、何だか身体が竦みそうです」
 嬉し涙を流す浄蓮を、準基が優しい眼で見つめる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ