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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

「止さないか、浄蓮。自分のことを、そんな風に貶めてはならない。私が良いと言っているんだ。そなたを欲しいと思う私自身がそれでも良いと言うのだから、構わないんだよ。それに、浄蓮。二度目にそなたに逢ってから、私は色々と考えたのだ。確かに私だって、男だから、無垢なままのそなたを抱きたいという想いはある。そなたがきれいな身体のまま、私の許へ来てくれれば、こんなに嬉しいことはない。だが、人間の価値とは、けして、それだけではないだろう。たとえ妓生として何人の客と褥を共にしようと、そなたの心さえ穢れていなければ良い。きっと、そなたは今のまま、変わらない。泣き虫で、ちょっと怒りっぽくて」
 浄蓮が泣き笑いの顔で言った。
「それなら、私はやっぱり、朝鮮一の妓生にならないといけませんね。最高の妓生になれば、できるだけお客の数を少なくできるかもしれませんもの」
「そうだな。我が儘を申せば、客は私だけにして欲しいが、やはり、それは無理だろうか」
 浄蓮はもう一度、〝朝鮮一の妓生〟という言葉を噛みしめた。準基と結ばれることはこれから先もないだろうが、この国いちばんの名妓になるという夢は、これからの自分を間違いなく支えてくれるだろう。
「若さまのお話をお聞きしている中に、私も兄上さまにお逢いしたくなりました」
 それは嘘ではない。男の身でありながら苦界に身を投じた―自分ですら、これで良かったのかと問いかけ続けてきたこの生き方を初めて認めてくれた人、これから待ち受けるでろあろう修羅の道の向こうに灯を与えてくれた人。
 それは、十五年の生涯で初めて心から好きになった男の兄だった。その人に逢いたいと心から思ったのだ。
「兄上にもいつか紹介するよ。きっと浄蓮のことも妹のように可愛がってくれる。兄上は笛も嗜まれるから、そなたの伽倻琴と合わせれば、さぞかし見事だろう」

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