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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 話が途切れた。
 雨脚は先刻より、やや弱まったようだ。
 その代わりのように、遠方から、かすかに雷の音が低く聞こえてくる。
 浄蓮は両膝を抱え、顎を乗せて、ぼんやりと考え事に耽った。
 今頃は、あの見事な天上苑もこの強い雨の中だろう。たくさんの蓮の花たちも雨に打たれて、それこそ泣いているように見えるかもしれない。
 あの見事な光景を思い出すと、どうしても、準基の教えてくれた伝説まで思い出してしまう。
 浄蓮は洞窟に入る前に、ちらりと見た山道を思い出した。人ひとりがやっと通り抜けられるほどの、細くて急な坂道が延々と続いていた。あの細くて険しい道を登ってゆけば、薄幸の娘が自ら生命を絶ったという場所に辿り着くのだろうか。
 そう考えた時、唐突に、ゾワリと悪寒が背筋を走った。別に怖い話を聞いたわけでもないのに、怪談を耳にしてしまった後のように、後味が悪いような、背後に誰かがいるような恐怖に駆られた。
 準基が心配そうに訊ねてきた。
「大丈夫か? 何だか顔色が悪いし、震えている」
「平気です。雨に少し濡れたからかもしれませんね」
 努めて明るい笑顔で応えても、悪寒はますます強くなり、しまいには自分でもはっきりと震えていると自覚できるようになった。
 準基が何か言いかけて、戸惑いを見せた。
「若さまの方こそ、何かお話でも?」
 訊ねると、準基は少し頬を紅くした。言おうか言うまいか迷っている様子が傍目にもありありと判ったが、浄蓮は準基が口を開くのを待った。
「その―こんなことを言うと、何か変な下心があるかと思われそうなんだ。だけど、そのままでは、本当に風邪を引いてしまう。浄蓮、チョゴリを脱いだ方が良い」

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