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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 しかし、そんなことよりも、浄蓮は準基の顔色が随分と悪いことが気がかりだった。
 確かに、洞窟を出てゆく前は、これほど白くはなかった。
 やはり、この雨の中を薪拾いに出たのが障ったのかもしれない。
「なるべく木陰に落ちていた、濡れてないようなものを選んで拾ったつもりだけどね」
 そう言いながら、準基は手早く集めた枯れ枝に火を付けた。
 湿った枯れ枝はなかなか火が付きにくかったが、やがて、ポッと小さな焔が灯った。
 焔は次第に大きくなり、傍に近づくと、ほのかな温かさが感じられる。
「浄蓮ももっと火の側に来て、温まるんだ」
 準基に言われ、浄蓮は彼に倣って焔の傍に座った。
「灯りとは、良いものだ。冷えた身体を温めてくれてるだけではなく、見ていても、心がホッと安らぐように思うよ」
 パチパチと薪が爆ぜる音が静寂に響く他は、音もない静かな世界だ。
 火影に照らされた準基の表情はこの上なく穏やかだ。しかし、顔色の悪さは相変わらずで、浄蓮は控えめに言った。
「若さま、どこかお具合が悪いのではないですか? 顔色がどんどん悪くなっているようです」
 準基は傍らの薪を焔に放り込みながら、微笑み返してきた。
「私なら大丈夫。これでも、健康だけが取り柄なんだ。尊敬する兄上のように頭は良くないけどね」
 最後は冗談めかして言う。
 それ以上、浄蓮が何も言えないでいると、ふっと準基の視線が止まった。
 そのまなざしが俄に熱を帯びたと思ったのは、気のせいだけではなさそうだ。
 準基は、浄蓮の胸許にじいっと見入っている。
 ドキンと、また胸の動悸が速く打ち始めた。

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