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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 準基を怖いと思ったのは初めてだった。細身の身体に見えるのに、物凄い力で浄蓮を拘束して思いのままに犯そうとしたのだ。
 浄蓮自身、力はある方だと自負していたのに、情欲に突き動かされる男の前では、いくらあがこうと、歯が立たず、まるで無力な女のように情けない有り様だった。
「済まぬ。謝って許して貰えるものではないだろうが、このとおりだ、許してくれ」
 準基は浄蓮の手を取り、そっと唇を落とす。
 まだあつい熱を孕むその感触に、浄蓮は思わずビクリと身を縮め、瞳を揺らした。
「そなたにこれで完全に嫌われたのでなければ良いのだが」
 不安げに見つめてくる男から、浄蓮はそっと視線を逸らした。
 今はまだ、準基の顔をまともに見る勇気はない。
「やはり、怒っているのであろうな。お願いだから、そんなに怯えた眼で私を見ないでくれ。もう、そなたが厭がるようなことは二度としないと約束する。だから、眼を背けないで、私の方を見て欲しい」
 その口調には懇願するようで、浄蓮は到底、無視を決め込むことなどできそうにない。
 浄蓮は、意思の力を総動員して準基を見た。
 いまだ瞳を潤ませ、その黒い瞳には涙の露がきらめいている。その様は、準基の愛馬の濡れた瞳に似ていた。
 準基の面に弱々しい笑みが浮かんだ。
「そなたが泣くと、私は、どうしたら良いか判らなくなるんだ。頼む。もう、怖がらなくて良いから、泣かないで」
「は―い」
 浄蓮素直に頷き、健気にも震えを堪(こら)えながら準基の方を一生懸命見ようとしているのを見て、準基が辛そうに眼を伏せた。
 雷が去った後は、かえって静けさが重く若い二人の上にのしかかり、二人ともに押し潰されてしまいそうだった。

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