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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 それから更に四半刻ほど後、雨は漸く止んだ。
 雨上がりの空は、既に西の方から淡い茜色に染まっていた。今からすぐに出発したとしても、都に入るのは既に夜の帳が降りる頃だろう。
 都を出たのがまだ昼を回っていない時間であったことを考えれば、随分と長い時間、準基と二人だけで洞窟に閉じこもっていた勘定になる。
 つい先刻までの土砂降りが嘘のように、空は蒼く澄み渡り、赤みを帯びた太陽が輝いている。樹々の緑が雨にすっかり洗われ、雨露を戴いた葉がきらきらと光を反射して眼にも眩しいほどだ。
 雨上がり特有の濡れた土と雨の匂いが周囲に漂い、自然の息吹きが咽せるように薫っていた。
 白馬は洞窟の近くの大樹に繋いでいた。樹齢何百年と思える巨木は凛然とした趣で、あたかも山奥に棲まう孤高の仙人のようにも見えた。白馬は烈しい雨と雷も物ともせず、相変わらず大人しく繋がれたまま、露を含んだ青草を食べている。これだけの巨木であれば、雨は十分に防げたはずで、実際、この気質の良い馬のしなやかな体は全く濡れた形跡はなかった。
 洞窟を出た瞬間、眩しい陽光が眼を射る。
 浄蓮は思わず額に手をかざし、遅れて出てきた準基もまた眩しそうにまたたきを繰り返した。
 偶然にも二人は殆ど同時に何か言おうとして口を開きかけた。丁度、真正面から視線がぶつかる格好になる。
 浄蓮は慌てて視線を逸らし、準基は準基で急いで別の方を向いた。
 浄蓮は準基の前であることも忘れ、つい手で頬を押さえていた。頬が燃えるように熱いのが恥ずかしくて堪らなかった。

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