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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 準基の顔がどうしてもまともに見られないのは、恐怖心からではない。事実、準基の表情はとても落ち着いていて、洞窟の中で一瞬見せたあの何ものかに憑かれたような烈しさは微塵もなくなっていた。
 もう、どこから見ても、いつもの優しくて穏やかな彼である。
 それなのに、頬の熱さが一向になくならないのは、恐らくは恐怖心からというよりは、準基の存在を意識しすぎてしまっているからだ。
 洞窟の中で交わした情熱的な口づけと狂おしく浄蓮を求めてきた彼の仕種の一つ一つを思い出せば思い出すほど、頬だけでなく、身体まで火照ってくる。そして、厄介なことに、その記憶は甦らせまいとしても、勝手にぽっかりと顔を出してくるのだった。
 白状してしまえば、女人相手なら、交わりの経験がないわけではない。むろん、ごくごく正常な男だと自負している彼が同性―つまり男と交わったことがあるはずはなかった。
 だが―。どうも、そういったこれまでの知識は今回に関する限り、殆ど全く役には立たなかったようである。
 同じ男とはいえ、口づけられただけで、何でここまで過剰に反応するのか。唇を合わせただけで、まるで身体を重ねたかのように狼狽え赤面している。いつもの自分ではないような心もちだ。まるで初恋を知ったばかりの清純無垢な少女(おとめ)みたいではないか!
 翠月楼に入ってからというもの、浄蓮はいつか男を手玉に取ってやろうと、手のひらで転がして良いように操り、金を巻き上げようと企んでいた。はっきり言って、男を金蔓としてしか見てはいなかった。
 なのに、準基といると、どうも思っているようにはゆかない。両班の若さまなんぞ、適当に口先だけであしらって、その気にさせて搾り取れるだけ搾り取ってやれば良いと思っていたし、もっと狡猾に立ち回れるはずだったのに。

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