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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 しかし、浄蓮が口にしたのは、全く正反対の科白だった。
「私の父が秀龍さまのお父上と親しくさせて頂いていたのです。その関係で、私も秀龍さまを幼い頃から存じ上げているのです」
 それは、あながち嘘ではない。というより、むしろ、真実に近かった。
「私の父はしがない下級役人にすぎませんでしたが、秀龍さまのお父君はあまり身分というものにこだわらないお方でしたから」
 建て前上、付け足すことも忘れなかった。
 確かに、秀龍の父才偉は身分の低い者たちにも分け隔てせず気さくに接するところがあった。秀龍が常民や賤民といった下層の人々と気軽に話すのも父親の影響を受けているのだろう。
 その慈悲深い一面を持つ才偉が、長年兄弟のように親しくしていた友である父潤俊を無情に切り棄てた。浄蓮の心に、いつものあのやり切れない哀しみが突如として湧き上がる。
 それでもまだ、準基は納得できないようだ。
「では、幼いときからの知り合い? とすれば、随分と長い付き合いになるな」
 浄蓮は縋るような瞳で準基を見た。
「多分、若さまは、秀龍さまと私の関係を誤解なさっているのだと思います」
「誤解? 誤解も何も、浄蓮は私の前であの男と熱烈な口づけをしていたんだよ? 先ほど、そなたは私が求めたときは厭がったくせに、あの男が相手だと、たいして嫌そうでもなかった、いや、私が見たところ、かなり積極的だったようだけど?」
「若さま、信じて下さい。私と秀龍さまは本当に何でもないのです。あれはただ―」
 そこで何も言うべき言葉がないのを知り、浄蓮はまた唇を噛んだ。
「あれはただ?」
 畳みかけるように言われても、返す言葉などない。

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