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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

「ごめんなさい、でも、信じて下さい。秀龍さまは私にとっては、兄のような存在なんてです」
 つい、泣きそうになってしまい、浄蓮は急いで眼をまたたかせた。
 何て馬鹿なんだ、俺は。自分で考えた策に自分ではまってやがる。
 準基を遠ざけるためにやった猿芝居が、かえって準基の誤解を招いてしまった。
 当たり前だ、あのきは、誤解させるつもりで、わざとやったのだから。
 それなら、いっそ潔く最後まで秀龍は恋人だと言い張り、準基に誤解させたままにしておけば良いのだ。いや、準基の心や将来を考えれば絶対にそうすべきなのだ。
 浄蓮は任準基から遠ざかっていくべきなのだ。彼を好きならばこそ、余計に離れるべきなのだ。
 なのに、自分は一生懸命、あれは誤解だったのだと準基に訴え続けている。それは、弱い自分が準基を好きだという気持ちに負けてしまったからだ。
 瞳を潤ませて見上げる浄蓮を、準基は複雑そうな表情で見ていた。
「―判ったよ。浄蓮がそう言うのなら、私はその言葉を信じよう。皇秀龍とは、本当に何でもないんだね?」
 こくりと頷いた浄蓮の頭を準基がくしゃっと撫でた。
「ああ、また泣きそうになっている。泣かなくて良いよ。私は好きな娘(こ)の言うことの方を信じるから。浄蓮は息をするように嘘をつけるような女じゃない。それだけは、判っているつもりだ」
 まるで妹を見るように慈しみに溢れた手つきに、浄蓮はまた泣き出しそうになった。
 どうかしてるぞ、俺。何で、十五にもなった男がいちいち些細なことで泣きそうになるんだよ。涙腺が緩んじまったのか?
 一人で自問自答している浄蓮は気づかなかった。
 準基の顔色が異様に蒼かったことに。

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