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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

「さあ、そろそろ帰ろう。今頃、翠月楼では大騒ぎになってるだろう」
 一歩踏み出そうとした準基の身体がユラリと揺れた。
「若さまッ!?」
 悲鳴のような声を上げ、浄蓮が咄嗟に支えなければ、準基は間違いなく地面に倒れていたはずだ。
 その点、見かけは限りなく女に近くても、男である。倒れかけた準基の逞しい身体を浄蓮は難なく支えられた。
「やはり、お具合が悪いのですね?」
「いや、大事ない」
 準基は愛しい娘の前でふらついたことを恥じ入るように、すぐに浄蓮から離れた。
「もう少し休んでから出立しては?」
 準基の体調を気遣って提案しても、彼は笑い飛ばした。
「もう、洞窟で十分休んだ。そなたにとっては不本意だったかもしれないが、私にとっては一生分の幸運を集めたかのような幸福な時間だった。良い想い出になるよ」
 言葉は元気そのものだが、顔色が尋常でなく悪い。
 その時、浄蓮は迂闊にもやっと悟ったのだった。
 
 白馬に跨った二人が漢陽の都に入ったのは、既にとっぷりと陽が暮れてからであった。
 浄蓮は準基に幾度も言った。
「若さま、翠月楼には私一人で帰ります。ですから、若さまは真っすぐお屋敷にお帰りになって、今夜はゆっくりとお寝み下さいませ」
 だが、準基は頑としてきかず、結局、翠月楼まで送ってきた。
 色町の夜は、今夜もいつもと変わらない。昼間は殆ど人気らしい人気もないのに、軒先の提灯に灯りが点ると、うらぶれた町が煌々と輝く艶っぽさに彩られ、馴染みの妓生目当てに訪れる客や客を引く妓生たちの嬌声で沸き返る。

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