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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 翠月楼の軒先にも鮮やかな提灯が店の前を明るく照らし出していた。表には明月とチェウォルの二人が手を取り合うようにして佇み、浄蓮の帰りを今か今かと待ち受けていた。
 女将の方は流石に見世の中にはいたものの、苛々と檻に入れられた動物さながら、一階の室内を歩き回っていた。
 稼ぎ頭の明月が浄蓮を案ずるあまり、今夜は客を取る気にならないと言うものだから、女将の機嫌は余計に悪い。
 そんな内情も知らない二人の乗った白馬が見え始めると、チェウォルが歓声を上げた。
「姐さん、姐さん。あれ、あそこ。見て!」
「何だよ、お前ったら、その歳で舌っ足らずの幼児のように単語ばっかりで喋るんじゃないっての」
 明月が口では叱りながらも、嬉しげな表情で頷く。
「本当、浄蓮だ」
 その明月の声が聞こえたのか、女将が表からすっ飛んできた。靴も履かず、チマの裾を大胆に絡げて大股で走ってくる。
 準基が浄蓮を抱き下ろすのを待つのももどかしく、女将は浄蓮の傍に駆け寄った。
「女将さん、黙って出かけたりして、申し訳ありません」
 頭を下げる浄蓮を、女将は憤怒の形相で睨み据えていた。
「馬鹿ッ」
 次の瞬間、女将の平手が浄蓮の右頬に飛んでいた。
 あまりに突然だったため、浄蓮の身体がふらつく。彼女に続いて馬から降りた準基が慌てて浄蓮を抱きとめた。
「女将、浄蓮を怒らないでくれ。私が誘ったのだ。彼女は行かないと言ったのに、私が無理に誘って連れ出したんだ」
 準基は果敢にも浄蓮を後ろ手に隠すと、女将の前に進み出た。

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