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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

「いいえ、若さまに謝って頂く必要はございません。あたしが腹を立てているのは、この娘のあまりの身勝手さにです。ここ(妓房)に来て、もう一年になろうってのに、まるで廓のしきたりってものが判ってないんです、この娘は。仕事を途中で放り出し、あまつさえ、誰にもひと言も告げずに男と二人きりで遠出するなんて」
「女将、誓って言うが、浄蓮には何もしていない」
 準基の言葉に、女将が鼻を鳴らした。
「若さま、この娘はまだ、見世出し前の生娘ですよ? それを殿方と二人だけで何時間も姿を消しちまったんです。たとえ、若さまやこの娘がその間に何もなかったと釈明しても、誰もそんなことを信じやしませんよ。失礼を承知で申し上げますが、若さまは、浄蓮の将来を考えて下さったんですか? 既に男を知った一人前の妓生ならともかく、素人娘を連れ出すからには、そんなことをしたら、浄蓮が傷物になるってことまでお考えになってから、連れ出すべきではなかったんじゃございませんか?」
「そのような―、浄蓮は傷物になどなってはおらぬ!」
 準基もまた憤懣やる方なしといった様子で叫ぶ。
 浄蓮には、女将の腹が知れなかった。準基がいまだに浄蓮を娘だと信じているなら、二人の間に何もなかったと証明しているようなものではないか。
 もし何かあったとしたら、準基は、こうまで浄蓮の名誉をひたむきに守ろうとはしないはずだ。
「それでは、どうすれば良いのだ? どうすれば、浄蓮の名誉を回復できる」
 女将が冷淡な声で断じた。
「そのようなものは、一切ございませんよ。一度傷ついた女は、生涯傷物。この娘はもう、使いものにはなりません。百歩譲っても、場末の酒場で働く安女郎にでもなるくらいしか生きる道はございませんね。生憎とうちの見世は、見世出しの際は皆、生娘だってのがウリなんです」

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