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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 そこで、女将の泣きぼくろのある口許が狡猾そうに歪んだ。
「ですが、そこまで仰せなら、あたしも申し上げましょう。もし、若さまがこの娘を奥方に迎えて下さるというのなら、二人の間に何もなかったという若さまのお話を信じますよ」
 とはいえ、と、女将が妖艶に微笑む。
「高貴な両班家に妓房で働く女中を入れるなんてことは土台、無理でしょうからね。小娘一人の名誉のために、何も若さまがそこまでなさる必要はございませんもの。ですが、無理な話だからこそ、私は若さまに申し上げているのです。私は今し方、二人の間に何もなかったなんて、誰も信じやしないと言いました。それでも、若さまがあくまでも浄蓮の純潔を主張なさるなら、その到底あり得ないことを真実だと証明するために、やはり実現不可能なことを実現させてみて下さいな。若さまがどのような無理をなさっても、実現してみせると仰せなら、この娘の貞操は守られていることになります」
「止めて下さい!」
 浄蓮が泣きながら言った。
「女将さん、若さま。もう良いのです。後先も考えず、見世を飛び出した私が愚かでした。私はここを出てゆきます。女将さんのおっしゃったとおり、元の姿に戻って生きてゆきますから」
「良くない」
 今度は準基が怒鳴った。
「女将、そなたの申すとおりにしよう。私が浄蓮を妻に迎えれば、この娘はきれいな身体だと、私たちの間には何もなかったと証明されるのだな。私は浄蓮を何としてでも、妻に迎える。それで良いのか、女将」
 短い沈黙があった。
 意外にも、その静寂を破ったのは女将であった。

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