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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 女将がふっと笑った。
「よくぞおっしゃって下さいました。若さま、何より体面を重んじる両班家の若さまが、妓房の下働き風情を奥方に迎えると言って下さったのです。よくよくお考えになってみて下さい。礼節を尊ぶ両班のお宅に嫁ぐ娘は何よりきれいな身体でなければなりません。どんな無理をしてまでも、この娘の名誉をかけて、奥方にして下さるとおっしゃるからには、やはり二人の間に何もなかったという若さまのお話は真実であり、なおかつ、それが真実であるからこそ、若さまはこの娘を奥方に迎えても差し支えないと判断なさった―、あたしは、そのように受け取りましたよ」
 詭弁といえないこともないが、実に巧みに誘導し、準基から〝浄蓮という娘は、やはり傷物ではない〟という証拠を引き出したのだ。
 その手腕は流石に、四十年近くに渡って、この世界に生きてきたからではのものだ。
 唖然とする準基に、女将は漸く本物の笑みを見せた。
「ありがとうございます。若さま、あたしだって、よく心得てます。話だけならともかく、妓房の女中が任家のお宅の奥さまになんてなれるはずがないですからねえ。どんなに頑張ったって、側室に迎えて頂くのが良いところです。でも、若さまは正面切って、この娘を妻にしても良いと仰って下さったんです。その若さまの言葉と決意が何より、この娘の名誉を守って下さったんです」
「女将、私は真に浄蓮を―」
 しかし、女将は皆まで言わせなかった。
「浄蓮は果報者ですよ。若さまにそこまで想って頂いて、幸せな娘です。ですが、若さま、今宵限り、もう、ここへはいらっしゃらないで下さい。この浄蓮はいずれ、見世に出します。客と妓生の付き合いと割り切れるような仲なら良いけれど、本気の恋は若さまにもこの娘にもかえって辛いだけですよ。必ず後で酷く傷つくことになり、生涯消えない傷痕を残すでしょう」

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