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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

「判った。そなたがそのように申すのなら」
 任準基はファンジョンからあっさりと手を放し、弾みでファンジョンの身体は後方に投げ出され、みっともなく尻餅をついて引っ繰り返った。
 フン、良い気味だ。
 浄連は許されるものなら、腹を抱えて笑い転げたいのを我慢した。
 と、ふいに腕を掴まれ、浄連は準基に部屋の外に連れ出された。
「もう、あんな連中とはこれ以上拘わり合いにならない方が良い」
 真摯な瞳で言う男に、浄連は微笑んだ。
「ありがとうございます。旦那さまのお陰で、危ないところを助かりました」
 その時、既に閉まった両開きの扉越しに、憎々しげな声が追いかけてきた。
「貴様(イノン)、これだけのことをしでかし、俺に恥をかかせて、ただで済むとは思うなよ?」
 こういう場合、敗者が残す捨て科白としては、ごくごく決まり切ったものだ。
 だが、浄連は胸騒ぎを憶えて準基を気遣わしげに見た。
「負け犬の常套句だな」
 準基は笑いながら返してくる。
「でも、大丈夫なのでしょうか? あの梁ファンジョンさまは、かなり執念深いご気性のお方ですから、心配です」
「または、しつこいとも言うね」
 そのいかにも冗談めかした物言いに、浄連は準基と顔を見合わせて吹き出した。
 話し声が部屋内まで届かない廊下の隅まで移動し、準基がまた口を開く。
「私の心配よりも、そなたは自分のことを心配した方が良い。先刻も忠告したが、あのような輩とは、もう拘わり合いにならぬことだ」
 浄連はうつむき、小さくかぶりを振る。
「そのようなわけには参りません」
「何故なのだ?」
 ひたむきな声音には有無を言わせぬ響きが込められている。その必死さが心底から自分を気遣ってくれてのものだと判り、浄連は胸が熱くなった。

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