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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

 秀龍の他には、この世に自分を心から案じてくれる人はいない、そう思っていた。なのに、眼前のこの男はろくに互いのことを知りもしない自分を気遣ってくれている。
 そのことが、涙が出るほど嬉しかった。
「私はこのお見世に金で雇われた身ですから。たとえ、気の進まないことであっても、女将さんの命令であれば逆らえないのです」
「金で雇われた身―」
 そのひと言に、相手はハッと虚を突かれたようだった。
「つまり、金で縛られた身だと、そういうことなのか?」
 はい、と、浄連は小さな声で頷いた。
「だが、そなたは妓生ではないのだから、何も宴席に侍る必要まではなかろう。そなた自身が嫌なら嫌だとはっきり申せば、女将も無理強いはできぬはずだ」
「私は自分でこの見世に志願してきました」
 初め、準基は形の良い細い眉を寄せた。
「私には、そなたの申し様が今一つ判らぬ。自分で志願した―とは?」
 浄連は真っすぐに準基の眼を見つめる。
「言葉のとおりです。自ら望んでこの見世に来たのです」
「親に売られたわけでもなく、生活のために身を売ろうとしたわけでもなく?」
 準基の声がかすかに震えた。しかし、それはよくよく注意していなければ、気づかないほどのものではあった。
 内心の動揺を務めて表に出すまいとしているのだろう。男の愕き様は、浄連が想像していたとおりであった。
 妓房に入るということは、即ち妓生になることを意味する。もっとも、浄連の今の立場はあくまでも下働き、つまり下女であって、妓生とは一線を画している。
 しかし、それは彼女自身の望んだものではない。浄連は一年前、翠月楼を初めて訪ねた時、女将に下働きではなく、妓生見習いにして欲しいと頼んだのだ。

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