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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

 元々、秀龍は父の希望どおり、文科を志望していたのだ。浄蓮の父が処刑された当時、秀龍は亡くなった兄と同じ十四歳であった。まだ少年であった秀龍はいかほど親友の父を助けたくても、その力はなく、己れの無力さを痛感する羽目になった。秀龍が志望先を文科から武科へと変更したのはそのときだった。
 そこまで亡くなった父や兄のことを考えてくれている秀龍に、浄蓮は肉親に寄せる情愛に近いものを抱いている。家族を失い、すべてのものをなくした浄蓮にとって、秀龍だけが心を許せる存在だ。
 六年前、親しくしていたすべての人々が一瞬にして背を向けたときも、秀龍だけは変わらず接してくれた。秀龍だって、浄蓮を突き放すことはできたのだ。でも、秀龍はむしろ、それまで以上に浄蓮について気にかけてくれるようになった。父である才偉から罪人の家族と拘わってはならないと厳しく窘められても、秀龍の態度は変わらなかった。
 そんな義兄を浄蓮は心の底から尊敬している。
 才偉は申潤俊の忘れ形見英真がひそかに生き延びていることを知っている。息子には拘わり合いになるなと言いつつも、そのことを領議政一派に知らせようとしないのは、せめてもの亡き友への思いやりだろう。
 武科の試験には当然ながら、武術も含まれている。秀龍は実技に備えても鍛錬を怠らず、その賜(たまもの)か、しなやかな身体にはほど良い筋肉がつき、さながら駿馬のようである。
「遅い」
 浄蓮の顔を見るや、秀龍はむっつりと言う。
 ああ、どうして、いつもこう愛想がないんだ、兄貴は。
 秀龍の容貌をひと口で言うなら、端整な風貌の貴公子といえる。物腰も穏やかで人当たりもまず悪くはない。が、あまり自分から喋る質ではなく、感情を表に出すことは少ない。
 他人はそれを冷静沈着だと喩えるが、浄蓮から言わせれば、ただのむっつりの愛想なしだ。

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