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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

 兄民(ミン)善(ソン)は持病を患っていて、実のところ、それは生涯完治する見込みはない。先天性の心臓病であった。医者の話によれば、心ノ臓に針で開けたほどのごく小さな穴が空いており、それが時折悪さして兄を苦しめるのだという。
 幼い時分は長ずるにつれて、その穴が自然に塞がってくることもあると期待をかけていたけれど、二十歳を超えた時、その望みはなくなったと医者から告げられた。
 この生まれ持った病のせいで、兄はずっと外を駆け回ることも許されず、屋敷で本を読むしかない子ども時代を過ごした。
 兄の病が眼に見えて悪化の一途を辿り始めたのは三年前くらいからだ。ある日、これまでにない大きな発作を起こして倒れて以来、ずっと寝たきりになってしまった。
 少し動いただけでも動悸が異常に速くなり、息切れがして動けなくなる。そんなときの兄はもう顔面蒼白で、本当にこのまま死んでしまうのではないかと心配になるほどだ。
 子どもの頃から、兄はどこか大人びていた。もちろん、自分より七つも年上なのだから、そんな風に感じるのは当然といえば当然かもしれなかったが、兄は同じ年代の他の子どもたちとも、どこか違っていた。
 すべてを諦めたような、何かを待っているような静謐な瞳は、もしかしたら、屠られる前の牛馬に似ているのかもしれない。
 先刻、自分はただ死を待つだけの身だと言ったが、その想いが兄の哀しげな瞳に何よりよく表れていた。
 準基は、物心つくかつかない頃から、この兄が大好きで、いつも後ろをくっついて回っていた。
 兄と準基の母は違う。兄の生母は、兄を生んで、まもなく亡くなったそうだ。兄と同様、心臓に欠陥を持つ女(ひと)で、出産が生命取りになったのだ。
 父にとって、兄は結婚後、五年目に漸く授かった子であった。妻の身体を考え、父は出産に反対したにも拘わらず、兄の母は我が身の生命と引き替えにでも産みたいのだと訴え、父もやむなく赦したという経緯があった。

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