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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

 もしかしたら、兄の凜とした潔さは、遠い昔に亡くなった生母ゆずりのものなのかもしれない。兄を生んだという先妻も、兄のように儚げだけれども、内に強さを秘めた女性だったのだろう。
 準基の母は、先妻の死後、嫁してきて準基を生んだ。従って、準基の母と兄には血の繋がりはない。
 母は甘やかされて育った両班の令嬢―その典型的なタイプの女だ。それでも、父よりはひと回り若く、非常に可愛らしい女性だったので―少なくとも外見だけは―、父は母の言いなりだ。
 世の中には後妻が継子を虐げるという話をよく聞くが、母はそれを地でいっていた。いや、父や世間の手前、露骨にはしないが、人眼のないところでは、はっきりと継子である兄と実子の準基を区別して扱っていた。
 準基は、幼い頃から、それが嫌で堪らなかった。
―兄上も私も同じ母上の子なのですから、どうか、もう少し兄上にも笑顔を見せて差し上げて下さい。
 頼んでも、母は冷たい微笑を浮かべるだけだ。
 準基が兄と自分の母が違う女人なのだと知ったのは、十歳を越えてからのことになる。それでも、準基の兄を慕う気持ちは少しも変わらなかった。〝兄上、兄上〟と、少し姿が見えないと、乳母を求める幼児のように屋敷中を探し回った。
 裏腹に、大好きな兄に冷淡な実の母は、次第に疎ましく思うようになっていった。
 母にしてみれば、準基が自分を嫌う原因は、兄にあると信じ込んでいたらしい。兄があることないことを幼い準基に吹き込んでいるのだと。
 準基が成長するにつれ、母の準基への可愛がり様は異様ともいえた。その分、継子である兄への風当たりは余計に強くなっていったのだ。

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