テキストサイズ

麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

 準基がそのときのことを思い出して笑い、兄もまた笑った。
「彼は今、どうしているのだろう?」
 兄の問いに、準基は笑顔で応えた。
「ジスンは今、成均館(ソンギユンカン)にいますよ。あの勉強嫌いで、いつも逃げ出していたジスンが今や成均館儒生ですからね。今では、あそこの学生たちから〝本の虫〟と呼ばれているほど、熱心に励んでいるそうです」
 朴ジスンの父親は名の知れた需学者で、私塾を開いていた。準基やその友人たちは皆、そこで学んでいたのだ。
 あの頃、ジスンはいつも講義中にこっそりと逃げ出してはサボっていたものだ。
「そうか、あのジスンが〝本の虫〟ねえ」
 兄の口調には懐かしむような、羨むような想いが込められているように思えた。
 病で寝たきりの我が身の不甲斐なさを痛感しているのだろうと察すると、準基の胸は痛む。慌てて話題を切り替えた。
「実は、そのジスンに頼んで、やっと書物を借り受けられることにはなったのです。でも、彼も月に一度の試験を直前に控えているとかで、二、三日しか貸せぬというのです。代書屋で代筆して貰うにしても、訊ねてみたところ、どんなに急がせてもひと月はかかるとか」
「そういうことなら、ジスンの試験が終わってから、ゆっくりと借り受ければ良い」
「そうですか。それでは、そう致しましょう」
 兄の賛意を得て、準基もどこかホッとした表情で首肯した。
「それにしても、ジスンは本当に勉強熱心なんだね。あの〝中庸綱紀〟を原文で読んでいるとは」
 〝中庸綱紀〟とは、清の有名な学者の著した著書である。〝中庸〟は〝偏らない〟、〝綱紀〟とは、国家を治める基本の法律を意味し、政治家が国を統治するに当たっての基本的な心得を判り易く説いたものだ。
 この国で広く読まれているのは、中国語で書いてある原書を朝鮮の需学者が訳したハングル誤訳だ。兄はこれを原書で読みたいと希望している。ハングル語訳のものは割に入手し易いのだが、それに引き替え、原文のものは極めて稀少である。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ