
天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第8章 哀しい別離
大急ぎで身体を拭き、清潔な夜着に着替えさせ、布団に入れる。
着替えさせるために触れた清冶郞の身体はゾッとするほど冷えていた。掛かり付けの医者が呼ばれ、その指示によって冷えた身体を温めるため、夏場にも拘わらず部屋には火鉢が設置された。
八重は清冶郞の傍らに座し、ずっと見守り続けた。
清冶郞を生まれたときからずっと診てきた小児科医南部(みなべ)庄(しよう)円(えん)は沈痛な面持ちで告げた。
「若君さまは肺炎を起こしておわされます」
大変な状況ではあるが、でき得る限りの手は尽くすとも。
庄円は帰ろうにも帰れず、そのまま屋敷内の一室で待機し備えることになった。
八重は庄円の処方した薬湯を清冶郞に呑ませ、高熱に喘ぐ清冶郞の額に乗せた手ぬぐいを取り替えた。今の八重にできるのは、たったそれだけのことであった。
熱で紅い顔をした清冶郞の呼吸は荒かった。苦しげにハッハッと息をする清冶郞を見守りながら、八重は一年前のことを思い出していた。
丁度一年前にも清冶郞は風邪をこじらせて寝込んだことがあった。あのときも生死の境をさ迷うほどの危険な状態に陥ったものの、清冶郞は持ち前の粘り強さで病に打ち勝った。
今度も大丈夫、けして若君は死にはしない。
いや、私が死に神に連れてゆかせはしない。
八重は眠る間も惜しんで、清冶郞の傍につきっきりで看病に当たった。
陰鬱な雨は三日間、降り続いた。清冶郞が床について三日めの夜半、雨脚が急に強くなった。時折、雷が鳴り、夜空で雷光が閃いた。光はまるで昼間のごとく、辺りを鮮やかに照らし出す。
しかし、その束の間の明るさは、八重の焦りと不安を余計に募らせた。
着替えさせるために触れた清冶郞の身体はゾッとするほど冷えていた。掛かり付けの医者が呼ばれ、その指示によって冷えた身体を温めるため、夏場にも拘わらず部屋には火鉢が設置された。
八重は清冶郞の傍らに座し、ずっと見守り続けた。
清冶郞を生まれたときからずっと診てきた小児科医南部(みなべ)庄(しよう)円(えん)は沈痛な面持ちで告げた。
「若君さまは肺炎を起こしておわされます」
大変な状況ではあるが、でき得る限りの手は尽くすとも。
庄円は帰ろうにも帰れず、そのまま屋敷内の一室で待機し備えることになった。
八重は庄円の処方した薬湯を清冶郞に呑ませ、高熱に喘ぐ清冶郞の額に乗せた手ぬぐいを取り替えた。今の八重にできるのは、たったそれだけのことであった。
熱で紅い顔をした清冶郞の呼吸は荒かった。苦しげにハッハッと息をする清冶郞を見守りながら、八重は一年前のことを思い出していた。
丁度一年前にも清冶郞は風邪をこじらせて寝込んだことがあった。あのときも生死の境をさ迷うほどの危険な状態に陥ったものの、清冶郞は持ち前の粘り強さで病に打ち勝った。
今度も大丈夫、けして若君は死にはしない。
いや、私が死に神に連れてゆかせはしない。
八重は眠る間も惜しんで、清冶郞の傍につきっきりで看病に当たった。
陰鬱な雨は三日間、降り続いた。清冶郞が床について三日めの夜半、雨脚が急に強くなった。時折、雷が鳴り、夜空で雷光が閃いた。光はまるで昼間のごとく、辺りを鮮やかに照らし出す。
しかし、その束の間の明るさは、八重の焦りと不安を余計に募らせた。
