
天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第8章 哀しい別離
八重はしばらく手毬を腕に抱きしめていたが、やがて、毬をそっと置き、手毬と並んでいた文箱を取り上げた。朱の紐がかかった蒔絵細工の箱を開くと、中から現れたのは色紙で拵えた蝶や舟、鶴だった。
―わあ、八重は凄いな。まるで手妻みたいに、色紙で色んなものを作り出すことができるのだな。
耳許で清冶郞の声がこだまする。
八重の眼に涙が滲む。
と、改めて色紙に混じって箱に納まっている小さな根付けを取り上げる。招き猫の形をした根付けは、猫の首輪の部分に紅い小さな石がはめこまれている。
八重が清冶郞にお守りだと言って渡した根付けだ。
―八重、八重。
ふいに清冶郞に呼ばれ、八重は慌てて振り向く。
―八重、八重。
その声に吸い寄せられるように視線を動かすと、そこには木馬があった。極彩色の木馬は清冶郞のお気に入りの玩具で、清冶郞が乗った木馬の手綱をよく八重が引いて揺らして遊んだものだ。
―清冶郞さま、いけません、そのように暴れては、木馬から落ちてしまいますよ?
八重が真顔でたしなめると、清冶郞は余計に歓んで木馬を揺らしたものだ。
―八重、もっと強く揺すってくれ。
―八重、八重。
後ろから、或いは右から、左から清冶郞の呼び声が響いてくる。
片隅に置いてある文机の上の小さな金魚鉢もそう、涼しげな透明のぎやまんの中で、紅瑪瑙を思わせる一対の金魚が優雅に泳いでいる。あれは、去年の夏、江戸の町で清冶郞が掬ったものだ。大小の大きさの違うこの二匹の金魚を、清冶郞は親子だと言い張った。
―わあ、八重は凄いな。まるで手妻みたいに、色紙で色んなものを作り出すことができるのだな。
耳許で清冶郞の声がこだまする。
八重の眼に涙が滲む。
と、改めて色紙に混じって箱に納まっている小さな根付けを取り上げる。招き猫の形をした根付けは、猫の首輪の部分に紅い小さな石がはめこまれている。
八重が清冶郞にお守りだと言って渡した根付けだ。
―八重、八重。
ふいに清冶郞に呼ばれ、八重は慌てて振り向く。
―八重、八重。
その声に吸い寄せられるように視線を動かすと、そこには木馬があった。極彩色の木馬は清冶郞のお気に入りの玩具で、清冶郞が乗った木馬の手綱をよく八重が引いて揺らして遊んだものだ。
―清冶郞さま、いけません、そのように暴れては、木馬から落ちてしまいますよ?
八重が真顔でたしなめると、清冶郞は余計に歓んで木馬を揺らしたものだ。
―八重、もっと強く揺すってくれ。
―八重、八重。
後ろから、或いは右から、左から清冶郞の呼び声が響いてくる。
片隅に置いてある文机の上の小さな金魚鉢もそう、涼しげな透明のぎやまんの中で、紅瑪瑙を思わせる一対の金魚が優雅に泳いでいる。あれは、去年の夏、江戸の町で清冶郞が掬ったものだ。大小の大きさの違うこの二匹の金魚を、清冶郞は親子だと言い張った。
