
天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第8章 哀しい別離
同じ蔓科の花でも、朝顔を見て、そんな淫靡な空想に耽ったことはない。凌霄花が触れなば落ちんの風情を漂わせた熟れた女なら、朝顔は溌剌とした若い娘を彷彿とさせる。
「私は、心のどこかで安心しておりました。清冶郞さまのおん病がいつかは治り、このまま刻が何事もなく流れ、清冶郞さまがつつがなく生い立ってゆかれるのではないかと楽観的に考えていたのです」
八重は淡々と言葉を紡いだ。
去年の夏、生死の淵をさまよってからというもの、清冶郞の病は表に出ることもなく、小康状態を保っていた。そのことに、八重も嘉亨も油断していたのは確かである。このまま平穏に時が流れ、清冶郞が元気に成長してゆくような希望さえ抱いていたのだ。
言うなれば、その油断、心の隙をついて、事件は起きたのだといえた。清冶郞に比べて、二人は大人であった。今少し事態を重く見て、清冶郞に自分たちのことを話し、ちゃんと理解させておくなり何なりの手を打っていれば、清冶郞が絶望のあまり屋敷に戻らず、雨の中をさまようようなことはなかったはずだろう。
「すべての罪咎は、事態を甘く見ていた私にあると存じます。若君さまがあのようなことになったのは、私のせいでございます」
八重が言い終えるのを待っていたように、嘉亨が口を開いた。
「それを言うなら、私も同じ罪だ。私はあの子の父親であった。父でありながら、息子から惚れた女を奪い、あの子を奈落の底へと突き落としたのだから」
「そう思し召すのであれば、どうかもう、このままお帰り下さいませ。そして、二度とここにはおいでにならないで頂きたいのでございます」
ひと息に言った八重に、嘉亨がにじり寄った。
「私は、心のどこかで安心しておりました。清冶郞さまのおん病がいつかは治り、このまま刻が何事もなく流れ、清冶郞さまがつつがなく生い立ってゆかれるのではないかと楽観的に考えていたのです」
八重は淡々と言葉を紡いだ。
去年の夏、生死の淵をさまよってからというもの、清冶郞の病は表に出ることもなく、小康状態を保っていた。そのことに、八重も嘉亨も油断していたのは確かである。このまま平穏に時が流れ、清冶郞が元気に成長してゆくような希望さえ抱いていたのだ。
言うなれば、その油断、心の隙をついて、事件は起きたのだといえた。清冶郞に比べて、二人は大人であった。今少し事態を重く見て、清冶郞に自分たちのことを話し、ちゃんと理解させておくなり何なりの手を打っていれば、清冶郞が絶望のあまり屋敷に戻らず、雨の中をさまようようなことはなかったはずだろう。
「すべての罪咎は、事態を甘く見ていた私にあると存じます。若君さまがあのようなことになったのは、私のせいでございます」
八重が言い終えるのを待っていたように、嘉亨が口を開いた。
「それを言うなら、私も同じ罪だ。私はあの子の父親であった。父でありながら、息子から惚れた女を奪い、あの子を奈落の底へと突き落としたのだから」
「そう思し召すのであれば、どうかもう、このままお帰り下さいませ。そして、二度とここにはおいでにならないで頂きたいのでございます」
ひと息に言った八重に、嘉亨がにじり寄った。
