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逃亡少女と逃亡悪人

第4章 不安


(きっとこの人、仲間のこと案じたんだ・・・)

改めて彼を見るとその身体は余すところなく血に濡れていた。
彼の血だったらどうしようと思い、私は彼の身体に触れてみた。

二の腕の辺りに触れると彼はびくりと身体を揺らした。

「おい」
「怪我してますよね・・・?」

右の肩から二の腕の辺りまでざっくりとナイフのような物で切られている。
見るからに痛々しいその傷はまだ手当もされていない。

「早く手当しないと化膿します」

なにか清潔な布はないだろうか。
そうだ。
浴室にタオルがあった。
私はそう思いつくと浴室にかけようとした。
しかしそれを男に止められる。

「おい、どこへ行く」
「止血できるもの、取りに行くんです」

そう言うとこのディーという男は思いっきり目を見張った。

「お前がなぜ俺の怪我を心配する・・・?」

・・・確かに。
言われてみればそうだった。

「なんででしょう・・・」

この人は敵だ。
私と姉をさらった輩のうちの一人だ。
なぜこの男を気遣わなければならないのだか。

「・・・俺になつくな」

うーんと考えていたらディーがぼそりとそう言った。

「お前を捕らえているのは、ある情報を聞き出すためだ。敵に懐柔されたならば、それがお前の弱点になる」
「・・・」

ディーの淡々とした低い声はすごくなめらかに私の耳に入ってきた。
この人はどうしてか人を落ち着かせる力を持っている。

「だから俺に、他の幹部に、なつくな」
「でも、どうしてそれを私に忠告してくれるんですか?そうなら、私がなついた方があなたたちには好都合ですよね?」

もっともな疑問だったと思う。
だがディーはふうとため息をついた。

「なにごとも物事はフェアな方がいい」

答えになっているような答えになっていないような解答だった。

「でも手当はした方がいいです」
「自室で自分でやる」
「そんな所自分ではしにくいはずです。私がとは言いませんから、他の人にでもさせてもらってください」

そう言って睨むと彼は仕方なくといった感じで頷いた。

「変な女だ」
「あなたも変な敵です」

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