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逃亡少女と逃亡悪人

第4章 不安

「・・・ケイ」

ディーはいつの間にか私の前から、私とケイの間に移動していた。

「こいつを殺せばおまえも死ぬことになるぞ」

その台詞に驚き、後ろを振り返った。
ケイは両手をぶらんと下げ、無言で立っている。
よく見たら彼の両手の全ての指の間に、なにか挟まっていた。
それは太めの釘のようにも見えた。
ただその先端は鋭く、まるで太い注射針のようだ。

「・・・殺そうとはしてない。ただ動けないようにはしようとした」

私が逃げ出したというのに焦りもしていなかった。
ただ、ディーのむこうにいる私を見ている。

「死んだほうがましだと思えるほどの苦痛を与えて、な」

ぞくっと背筋に寒気が走った。
ケイが持つ八本の針がきらりと光を帯びた。

やばかったのだ。
ディーが止めてくれていなければ、私はケイのあの針に貫かれていた。

「だろうな。お前のそれは拷問よりひどい」

ディーはそう呟くと、私の腕を掴んだ。

「!」
「来い」

強い力でひかれ、ケイの横を通り過ぎる。

「お前は頭を冷やしてこい。今回のことは何も見なかったことにする」

ぶっきらぼうな口調でディーはケイにそう告げると、私をそのまま部屋の中へと押し込めた。
そしてその後彼も部屋に入り、ドアを閉める。

「・・・馬鹿なことを」

彼は私を見てそう言った。
私はというと・・・うつむき唇を噛み締めていた。

失敗したのだ。

「・・・罰とか、ないんですか」

口を聞かないなんて決心も忘れ、私は相手の顔も見ることなくそう尋ねていた。

「今回はなかったことにする」

きっぱりとした毅然な態度で彼はそう言い切った。

一瞬どうしてだろうと思ったが、すぐにはっとした。
罰されるのはケイの方だから、ディーはこのことをなかったことにしようとしているのだ。
私を逃した失態をきっとここの組織のボスという人は許さないのだろう。
全て推測だったが、この理由で間違いないと思った。

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