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魔境夢想華

第3章 交差する不安《凜視点》

『もう辛い思いをするのは嫌なのです』


(……!?)

突然、俺の中に浮かぶ若い女性の声。悲しみを湛えているようなその声音。

その声に聞きおぼえがある。
そうだ、今の声は毎晩見る“姫”の声だ。
どうして夢の中の声が俺の脳裏に響いてくるんだ。



「……あ、その……」
断りたい。その一心が俺の中で渦巻いている。
まるで“夢”と同化しているようだ。
自分でも解らない拒絶。正体不明の感情に振り回され、うまくセーブが出来ない。


「あ、蓮川くん! 一緒に帰ろう?」
途端に数名の女生徒たちが一斉に廊下に飛び出し、あっという間に蓮川を囲んだ。
「い、いや、俺はそこの……」
蓮川が困惑の表情でうろたえている間に、俺は彼らから遠ざかるようにして駆け出した。
「あ、浅倉!」
俺を呼ぶ蓮川の声が聞こえたが、俺は無視を決め込んでひたすら下駄箱目指して走っていく。


ハァーッ……。靴を履きかえ、俺は心身ともに安堵の息を吐いた。
蓮川には悪いが、女子生徒たちに感謝だ。

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