テキストサイズ

一日一恋

第1章 はじめて


失恋を始めた。
私は、失恋とはなんたるかを全くわかっていなかった。
そして、数々の歴史の名作は、失恋という概念に十分な説明を与えていたわけではなかったことを知った。
名作は空想であり、一個人の歴史でしかない。
科学的根拠に基づき標準化されたマニュアルではないのだ。
もちろん、当時、恋愛小説を読んでいた私がそのような意識を持って読んでいたわけではない。むしろ、楽しそうですね、と吐き捨てていたタイプだ。
たとえそういう態度でも、そういうこともあるのね。と、いつかくるかもしれない未来に、もしかしたら適用できるかもしれないと、これっぽっちも考えていなかったわけではなかったはずだ。
しかし、
そんな僅かの当てすら外れた、大外れだ。
恋愛小説の中の主人公が倒錯的になり、破滅的に、恋に焦がれていく様は私には確かに美しいものに見えた。
切なくて、儚くて、それでいて強い。
羨ましいとすら思った。
でも、自分が体験した失恋はそんなものじゃない、
意識清明な状態ながら、精神内界はまるで嵐のように感情が入り乱れ、外界からの知覚は全て、たったひとつの事柄に結びつく
たったひとりの恋人という他人に
やめたいと思ってもやめられない、
流れ出る涙を止められない
愛する気持ちを止められない
たった一人の男を思ってどす黒い感情を掻き回す姿は、美しくなんて全くない
傷ついた心を癒すために、綺麗だった思い出と言い訳を並べて眺める姿は儚くなんて全くない
それを延々と繰り返す
失恋は常に現在進行形だ
失恋に終わりはない、思い出しては何度でも鮮やかに蘇り、何度でも心を傷つける
私は、本当の失恋を知った
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白いエモアイコン:共感したエモアイコン:なごんだエモアイコン:怖かった

ストーリーメニュー

TOPTOPへ