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アルカナの抄 時の息吹

第2章 「塔」正位置

「俺の勝手だ」

「邪魔なのよ、そこ。どいてよ」

「ぐ……」
王はおずおずと退くが、どこかに行く様子はまったくなかった。それでも無視して掃除を続けていると。

「…その態度は気に食わないが」
突然王が口を開く。

「――おまえの働きには感心する」
顔を背けながら、王が言った。

「掃除のことー?」
言いながら、絶えず手を動かしている。

「違う!知略のことだ」

一瞬何のことかと思うが、すぐに理解する。

あれから王にちょくちょく呼ばれ、国の戦争に首を突っ込んでいた。元々計算高い女だ。かの天才悪知恵坊主も逃げ出すような、ずるくて悪どい、巧妙な手を考えた。ある意味純粋すぎる王などには到底思いつかないだろう。

「ああ。そりゃどうも」
王が誉めることなどめったにないのだが、あたしは顔も向けず、興味なさそうに言った。…よし、これをちりとりに入れたら、今日は終わりにしよう。

この俺が、誉めたというのに。…王はムッとしていた。この女をへりくだらせる方法は何かないかと考えるが、思いつかない。

「…それだけだ。じゃあな」
やがて歯がゆそうに言い、王は去っていった。

「…なんなのかしら」
ちょうど掃除を終えたあたしは、不思議そうに王の後ろ姿を見た。





その夜は、月がきれいだった。なんとなく外に出た王は、整えられた庭を眺めていた。

ふと、城を見上げる。と、女性が窓にもたれかかり、夜空を見ている姿が目に入った。王はすぐに目を背けた。

避けていたのに…見てしまった。あの部屋にすら近づかないようにしていたのに。自然と過去を思い出してしまう。自身のつらい過去を。

やめろ…やめてくれ。

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