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アルカナの抄 時の息吹

第2章 「塔」正位置

いつのまにかすぐ近くに来ていた王が、あたしを突き飛ばした。衝撃に目をつぶる。

だけど、衝撃は一瞬だけで、身体のどこにも痛みを感じない。ゆっくりと目を開けると、すぐ前に王の顔があった。


「え……?」
その顔が苦しそうでなければ、声をあげていただろう。王の後ろには崩れた瓦礫片が見え、王は自らを圧迫するそれから庇うように、あたしに覆い被さっている。

「な、なにしてんの…」
あたしを助けるなんて…らしくないこと。

「…るせ…俺に、も…わから…」
痛みに顔を歪めながら、絞り出すように言った。…よく見ると首の後ろから、血が流れている。

「ちょっと…あんた、血が…」
紫の目が、だんだんうつろになっていくのに気づき、青ざめる。

王のまぶたが下りていく。そのままふらりと倒れ込み、王は意識を手放した。





王が意識を取り戻した頃には、夜になっていた。自室のベッドに横たわり、傍にはハースが控えていた。
「陛下!お目覚めになられたのですな…よかった」
ハースは涙をにじませていた。

「泣くな。簡単には死なねえよ」
大げさだと呆れつつ、王は笑った。

「…あの女は?」

「先ほどまでここにおりましたが…部屋に戻りました」

「そうか」
ということは…一応生きてはいるんだな。

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