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アルカナの抄 時の息吹

第2章 「塔」正位置

寝間着のボタンをとめ、扉を開けると、王がどすどすと歩いていくのが見えた。

「身体は大丈夫?ていうかあたしになんか用だったんじゃないの?」

「うるせえ、インラン女!様子を見に来ただけだ!帰る!!」
背を向けたまま王が言った。

元気そうね。…って、今聞き捨てならない単語を耳にしたような。

「インランってなによ!」

「裸みたいな姿でうろうろするな…!」

「うろうろって…部屋の中だし、着替えてただけじゃないの!あんたがノックしないのが悪いんでしょ!!」

「黙れ――話しかけるな!!い、インランが移るっ」

「はああ?」
意味わかんない。インランが移るとか、小学生かっての。

言い返す間もなく、王の姿は見えなくなった。なんなんだ、と首を傾げながら、あたしはそのまま扉を閉めた。





「おい、インラン女っ!!」

荒々しいあの男の声に、いつものように庭掃除していたあたしはピクリと反応した。ある単語に、だ。

「…あのねえ」

その呼び方、なんとかならないかしら。

くるりと振り向くと、初めの勢いはいずこ、王はビクリとして立ち止まった。挙げ句、2、3歩後退り、かなり離れた位置から叫び始めた。

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