
Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
「それとも、施設から身寄りのない子どもでも引き取ろうってのか?」
直輝はどこか所在なげに周囲を見回し、それから苛立ったように煙草を取り出して火をつけた。
「そりゃア、親のない引き取り手のない赤ん坊を育てるってのも悪くはないと思う。だが、他人の子を育てるのは思ってる以上に難しいぞ? 犬や猫の子を飼うのとは訳が違う。その子が一人前になるまで一生涯、責任をもって養育しなければならないんだ。紗英子がどうしても育ててみたいというのなら、敢えて反対まではしないけど、もう少し気持ちが落ち着いてから、よく考えて判断しても悪くはないんじゃないのか?」
紗英子は真顔で首を振った。
「違うのよ、赤の他人の子を引き取るわけじゃないのよ。私たちの、直輝さんと私の血を引く、紛れもない私たちの子どもよ」
「おい、紗英子。お前、本当に何を言ってるんだ? こんなことをお前に言うのは酷だが、俺たちにはもう子どもはできるはずがないってことはお前もよく判ってるだろ」
「そんなことはよく判ってる。でもね、直輝さん、諦めるのは早いのよ。私たちにも子どもを持つチャンスはまだ残されているんだから」
直輝は呆れたように首を振った。
「俺はどうも紗英子の言う意味がよく判らん。お前はもう子宮を取ってしまったのに、どうやって子どもを生むっていうんだ?」
「だから、私が生むわけじゃないの。私の代わりに、誰か別の女性に生んで貰うのよ」
勢い込んで言った妻を、直輝は唖然として見つめた。
「何だ、それは。お前、何を夢みたいなことを言ってる」
「夢じゃないの。直輝さんも聞いたことくらいはあるでしょ。代理出産といって、自分たちの子どもを別の人の子宮に戻して育てて生んで貰う方法があるのよ」
「―」
しばらく直輝から声はなかった。
「タレントの幡多ふゆ香さんが一ヶ月ほど前に、代理出産で生まれた双子の赤ちゃんを連れて帰国したニュース、今朝のテレビで見たの。だから、私たちも―」
直輝はどこか所在なげに周囲を見回し、それから苛立ったように煙草を取り出して火をつけた。
「そりゃア、親のない引き取り手のない赤ん坊を育てるってのも悪くはないと思う。だが、他人の子を育てるのは思ってる以上に難しいぞ? 犬や猫の子を飼うのとは訳が違う。その子が一人前になるまで一生涯、責任をもって養育しなければならないんだ。紗英子がどうしても育ててみたいというのなら、敢えて反対まではしないけど、もう少し気持ちが落ち着いてから、よく考えて判断しても悪くはないんじゃないのか?」
紗英子は真顔で首を振った。
「違うのよ、赤の他人の子を引き取るわけじゃないのよ。私たちの、直輝さんと私の血を引く、紛れもない私たちの子どもよ」
「おい、紗英子。お前、本当に何を言ってるんだ? こんなことをお前に言うのは酷だが、俺たちにはもう子どもはできるはずがないってことはお前もよく判ってるだろ」
「そんなことはよく判ってる。でもね、直輝さん、諦めるのは早いのよ。私たちにも子どもを持つチャンスはまだ残されているんだから」
直輝は呆れたように首を振った。
「俺はどうも紗英子の言う意味がよく判らん。お前はもう子宮を取ってしまったのに、どうやって子どもを生むっていうんだ?」
「だから、私が生むわけじゃないの。私の代わりに、誰か別の女性に生んで貰うのよ」
勢い込んで言った妻を、直輝は唖然として見つめた。
「何だ、それは。お前、何を夢みたいなことを言ってる」
「夢じゃないの。直輝さんも聞いたことくらいはあるでしょ。代理出産といって、自分たちの子どもを別の人の子宮に戻して育てて生んで貰う方法があるのよ」
「―」
しばらく直輝から声はなかった。
「タレントの幡多ふゆ香さんが一ヶ月ほど前に、代理出産で生まれた双子の赤ちゃんを連れて帰国したニュース、今朝のテレビで見たの。だから、私たちも―」
