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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第4章 ♠RoundⅢ(淫夢)♠ 

 確かに、当時はまだキスさえしたことがなかった。同じ高校に通い出した高校一年の夏休みに海へ行った帰りにファーストキスを交わし、初めてホテルで身体を重ねたのは大学三年のときだ。初めて結ばれたその日に、直輝は紗英子にプロポーズした。
 既にその時、付き合い始めてから、八年の年月が流れていた。直輝は一度も結婚なんて口にしたことはなかったけれど、紗英子は自分たちがいずれそうなることを予感していた。
 直輝は良い加減な男ではない。彼は男気のある男だから、一度始めたことを途中で放り出したりはしない。もちろん、どちらかを選ばなくてはならない場面に遭遇したとすれば、より責任を負わねばならない方を選択するだろうが。
 それとも、彼も人間だから、やはり義務や責任といったものよりも、己れの感情や気持ちに素直に従って行動するときもあるのか。
 思えば、直輝とは幾つもの季節を共に過ごし、歳を重ねてきた。彼は単に夫というだけでなく、幼いときから同じ時間と想い出を共有してきた友であり同士でもあった。
 何故だろう、自分は大切なことを忘れていたような気がする。  

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