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どらくえ3

第1章 旅立ち

ルイーダの酒場。
町では一番の酒場だ。
入り口に「ルイーダ」と大きな看板があがっている。
ここにはいろいろな人が集まる。
夜の酒場としてはもちろん、昼間は食堂として賑わっている。

俺達が店に入ると
「いらっしゃい!」
と大きな声で迎えられた。
声の主は、この店の女主人、ルイーダだ。

俺達は通いなれた店で、ルイーダとも顔馴染みだ。

「こんにちは」

「おや?来たわね。アベル、誕生日おめでとう。あんたたちのお昼用意してあるわよ。」

「ありがとう、ルイーダ。今日からイースと旅に出る。情報が欲しいんだ」

「そう。あなたの夢だったものね。時が経つのは早いもんだわ」

ルイーダは母さんと同い年だ。
実は昔、父さんのことが好きだった、らしい。
だから、ってわけじゃないけど、俺のことは昔から気に掛けてくれていた。

「まあ、取り敢えず、食べなさいよ。冷めちゃうわよ。」

俺達に料理を勧めてルイーダは奥に歩いていった。

ルイーダはとっても美人だけど、今でも独身だ。
ルイーダを目当てに来る客は多い。

俺達が用意された料理を食べていると奥から他の客とルイーダのやり取りが聞こえてきた。

―もう諦めて俺と付き合って。ずぅぇったい幸せにするからさ。
―諦めてって何?
―だからさぁ、オルテガの旦那は結婚した上に、魔王退治の旅で火口に落ちたって噂じゃねぇか。
もう十分だろうよ。

俺の手が止まる。

・・父さんの話題だ!
「火口に落ちた」
というのは、確かに噂になっている。

でも、信じたくはない。
きっと生きて、今も平和のために戦ってる。

イースが俺の様子に気付いて、奥の客に向かって文句を言うために席を立ちかけた、その瞬間!

ばっしゃぁあん!!

「つめてぇぇっ?!何すんだよ、ルイーダちゃん?」
「昼間っから飲み過ぎだ!この馬鹿たれ!言っていいことと悪いことがあるんだ!私を口説くのは100年早いっ!出直しといでっ!」

ルイーダの樽水ぶっかけの一喝で、奥の客は慌て退散した。

「・・悪かったね」

ルイーダがすまなさそうに俺達に声を掛けてくる。

「大丈夫だよ」
俺は苦笑いをする。

「私は信じてるよ」
ルイーダは俺の目を真っ直ぐ見て、そう言ってくれた。

そして、「せっかく腕を振るったのに、台無しだわ」と笑った。

その笑顔はとても素敵だった。

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