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切ない朝

第8章 岐路

あの、おぞましい、だけど淫靡で夢のような時間と空間が電車と一緒に去ってゆく。

ホームに残された昌子はそんな事を思いながら、電車を見送った。

電車の巻き起こす風が昌子の短めの髪をなびかせる。

初夏の熱い風だが、電車から降りたばかりの昌子には心地よく感じ、また現実に一歩引き戻すには十分な刺激だった。

昌子は右手を開く。
分かれる間際まで男と手を握り合っていた、右手。

そこには男が何かを昌子に握らせていた。

その何かを見てみる。

昌子の手には男の名刺があった。




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