秘書のお仕事
第9章 板挟み
「よし、仕事だ、行くぞ」
急に立ち上がって何を言い出すのかと思えば、せかしに来たのかよ
『もう少し待ってくださいよ、まだ食べてる途中なんですから』
「…」
社長と付き合いが長いわけじゃない
でもここで社長が黙り込むなんて、思ってもみなかった
「そうか…」
しかもそれだけじゃなくて、なんか納得してるし
『大丈夫です、昼休みが終わる頃にはちゃんと戻ってますから』
「いや…
ゆっくり食え」
そう言うと社長は、再び椅子に腰を下ろした
…帰らないのか、あんた
「相沢」
『はい?』
いつのまにか、食堂に漂っていたお硬い空気は取り払われていた
周りの雑音で聞き取りづらくて、思わず大きめの声で返事をする
「ここの飯は旨いか?」
あたしは全く社長を眼中に入れてなかった
それでも社長があたしをガン見している気配はプンプンしていた
『美味しいですよ』
社長の視線が頬に突き刺さるようだ
何と無く涼に助けを求めるけれど、涼は食事に一生懸命
「他に何か、要望はないのか?」
『…どういう意味ですかね?』
「だから…こういう料理が食べたいとか、こうすればもっと社員にとって便利になるとか…」
社長らしくない
ごにょごにょと喋るもんだから、あたしは返事さえしづらい
『何でですか?』
「…」
ストレートなあたしの質問に、社長は黙り込んだ
しかしその後すぐに口が開かれる
「会社の為に決まってるだろ」
『…』
感心とか、別にしてない
でもあたしはこの時、社長の欲しがる答を言おうとは思わなかった