秘書のお仕事
第9章 板挟み
カチャカチャと食器同士が当たる音がする
あ、音を立ててるのはあたしか
『…』
ちらりとお隣の様子を窺うと、社長は上品に食事していた
仮にドレッシングがかかっていたなら、それを皿につけることなくサラダを食べてしまう、そんなレベルだった
「千晴ぅ」
すると涼が、小声で話しかけてきた
『なに?』
「社長に話しかけてよ。
会話なしじゃつまんねーじゃん」
絶対イヤ
そういう意味を込めて首を振ると、肘で小突かれる
「またまたぁ。
ほら、早く」
『い、嫌なんだって…』
カチャン
お箸を置く音が聞こえた
いつの間にか、社長は完食してしまったようだった
「…」
社長は腕を組んで、座ったまま
早くどっかいって欲しいんですけども〜
『社長が食堂に来るなんて、珍しいですね』
涼に押されたのもあって、あたしは社長に話し掛けた
「ああ、ここで食事をとるのは久しぶりだ」
あたしの顔は一切見ずに、どこか遠くに目をやりながら、社長は答えてくれた
『今日はどういった風の吹きまわしですか?』
「なんだ、俺がここで食事したらダメな理由でもあるのか?」
誰もそんなこと言ってねーだろー
『いいえ、別に』
社長の言葉には
いつもどこか人をバカにしたような気持ちが込められてる気がする…