
Memory of Night2
第2章 春
「あ、宵」
ドアを開けかけて振り返る。
「今日の五限の体育、なんかテストするらしいよ。成績に入るらしいから、遅れないように気をつけてね」
「うん、大丈夫。撮影は午前中で終わるし。ありがと」
「じゃあまた学校で」
「うん」
晃は右手を軽く上げて、今度こそ宵のアパートを出ていった。
残された宵はリビングに戻って朝食に使ったコップなどを流しに運ぶ。
支度はすでに終えている。後は迎えを待つだけである。
高校に遅刻の連絡を入れると、ふいに携帯が鳴った。
飾り気のない黒い携帯電話。着信メロディーもメールの受信メロディーも買った時のまま変えていない。
室内に響き渡るシンプルな音はメールの受信音だった。
携帯を開くと予想通り、それは春加からのものだ。
宵は受信ボックスを開いてメールの中身を確認する。
『着いた。二分で来い』
必要なことを端的に表しただけの要件メールに、宵は軽くため息をついた。
だが、遅れるとまたごちゃごちゃと文句を言われるだけなことも経験上わかっている。
宵は鞄をひっつかみ、部屋の中をざっと見渡して早足で玄関に向かった。
