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Memory of Night2

第3章 名前


 プロダクションの隣の狭い駐車場には、車は三十台ほどしか駐車できない。

 幸い最寄りの駅がここから歩いて五分ほどの場所にあるので、電車を利用する人も多いのかもしれない。

 春加のスポーツカーは駐車場の奥の方にある。場所もいつも決まっていた。

 プロデューサーの深津とのやり取りを思い出しても、この職場では古株なのかもしれない。

 黒やらシルバーが並ぶ中、春加の真っ赤なスポーツカーはとても目立つ。

 春加の何歩か後ろを歩いていた宵が助手席に乗り込むと、すぐに車は発進した。

 時間を確認すると、まだ五限まで一時間はある。

 昼を抜けばどうにか間に合いそうだ。

 けれどもほっとしたのもつかの間、いつものように窓の外を眺めていた宵は、ある違和感に気付く。

 ……景色が、おかしい。


「おい、この車どこ向かって……」

「どこって、これから買い物。付き合え」


 春加は前方を見据えたまま、平然と言ってのける。

 ごてごてと装飾だらけの爪が、ハンドルを軽くたたいた。


「はあ!? 学校に送ってくれる約束だろ!?」

「買い物したらちゃんと送るよ。喚くな鬱陶しい!」


 ぴしゃりと跳ねのけられ、思う。それでは遅いのだ。

 体育のテストのことは伝えてあるのに、春加はそんなの一切お構いなしらしい。

 宵の抗議はまたもやスルー。

 やかましいほどの走行音を乗せて、スポーツカーは宵の知らない道をひた走っていった。

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