
Memory of Night2
第2章 春
本当に清々しい朝だ。
宵は窓を開けた。
朝特有のひんやりとした空気が、少し伸びた漆黒の髪をなびかせる。
真っ青な空には雲一つなく、風もなかった。
気温は五月にしては少し低めだが、文句なしの晴天だ。
こんなに清々しい朝なのにわずかな倦怠感が体に残っているのは、おそらく、昨日夜半すぎまで没頭していた行為のせいだろう。
宵はカーテンをまとめてシーツを軽く整え、シャワーを浴びに部屋から出て行った晃を見送りながら、何かと忙しかったここ数カ月間のことを思い返していた。
大河(たいが)宵と大西(おおにし)晃。
二人が付き合い始めたのは、ちょうど去年の十一月頃のことだ。
お互いの気持ちを確かめ合って、付き合う付き合わないを口に出しはしなかったけれど、一応『恋人』という形に落ち着いてから半年余りが経とうとしていた。
お互いの距離はあの頃から、それほど変わっていないように思う。
普段は軽口を叩きあって、夜は甘ったるい時間を過ごす。
休日は気まぐれに会って、時々出かけたりもする。
そんな中、こんなにも慌ただしく感じてしまうのはきっと、周りの環境が急激に変化し始めていたためだ。
