向かいのお兄さん
第25章 聞いて
「スゲーな、そんなマニアックな評論読んでるとか…」
『…これ?』
「うん。俺の高校の担任が出版した奴でさ
俺も持ってんだ」
あたしは、その本を直也の胸に押し当てた
『この本は…あんたのだよ…』
「…」
直也は本を抱え、そのまま他の本にも目を通した
見覚えがあるのだろうか
それらを眺めながら、直也は黙り込んでしまった
『…全部、知ってるでしょ?』
"子供社会の経済"
"言語が私たち"
"幸福の追求"
どれもこれも、あたしは嫌になってくるぐらいコテコテした内容のようだけれど
きっと、直也にとっては
全部好きな本なんだ
自分でも、"人はあまり読まないだろう"と思っていた本が
この部屋に
しかも、直也の好きなものばかりが集まっていて
驚いているに違いない